街になった家/小川 葉
い町名知ってるんですね
バスの運転手さんが言う
この辺りは昔は洗濯物が乾く
いい匂いがしていてね
やさしい母さんの背中を見ていた
子供の頃を思い出すんだなあ
でも今この街にはそんな母さんはいやしない
みんな働きに出て行ってしまった
生きるために生きる喜びを犠牲にするのは
男だけでよかったというのにねえ
バスが終点裏木戸町に着くと
もう夜で帰りのバスもなかったので
町から少し国道に歩くとモーテルがあったので
しかたなく一人でそこに泊まった
モーテルの窓からわが家の二階の窓が見える
寝室の灯りが点いていて
しばらくすると消えた
僕も灯りを消して広すぎるベッドで一人
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