街になった家/小川 葉
わが家にも念願の街が出来た
これからは部屋の名前を
町名で呼ばなければならない
陽だまりヶ丘一丁目
そこに僕がいる
居間の窓際の辺りだ
二丁目から三丁目
キッチンが見える街まで
妻を探しに歩いて来たけれど
見当たらないので僕は
裏木戸町行きのバスに乗る
きっと庭で洗濯物を干してるのだ
車窓から外を見てると
街はたくさんの人で溢れている
ここがもともと小さな家だったことが
無意味になるくらいに
街は街らしくなって
家が家ではなくなっていく
家族も少しずつ
街の広さに飲み込まれていくのが
実感としてわかる
妻は庭にいなかった
ずいぶん古い町
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)