恋花(コイバナ)/渡 ひろこ
 
すっかり生ぬるくなったビールの向こうに
睡蓮の花が物憂げな顔で座っている
白い陶器の肌が青ざめて
透き通った光沢を放っている

その清楚な肌に触れることを許した
借金まみれの男の手が離れそうだという
他の花の元へ行くのが怖くて
眠れなかったと
伏し目がちな瞳で語る


隣には抑えようとしても
ほころんでしまうフレンチローズが
零れそうな蜜の香りを漂わせている

左の薬指に魔除けのリングをはめた上司との
ヨリが戻ったという
この間まで萎れていた花弁が艶めき
リングの指と戯れて
一晩中眠らなかったと
潤んだ目で笑っている



カノジョたちは{ルビ棘草
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