修羅のひと/恋月 ぴの
 
竦めてしまう程に冷たい雨が線路上の視界を遮っていた
それでもこの待合室のなかは
いつもと変わらず外界から隔絶されていて
息苦しさと忌み嫌う澱んだ空気にさえも親しみを覚えてしまう

今日もあの女のひとの姿を見かけた
誰かに良く似た女のひと
引き摺るような足取りで普通電車に乗り込んでいった
何か思い煩っているようだった
一声かけてみれば良かったのかもしれない

そう言えばあの喫茶店を訪れてみよう
シューベルトの流れる純喫茶
今どき珍しい陶磁器製のミルクピッチャーが可愛らしくて
黴臭い古ぼけた椅子に深々と腰をおろし
愛するひとに先立たれたおんなの性に浸ってみたい


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