歓喜の海/佐々宝砂
倒れた陳列棚と
誰にも愛されなかった商品を照らしている
北へ逃げろと誰かが叫ぶ
明滅する帯電した埃を散りばめて
夜空は複雑怪奇な色彩
それを東西に両断する水蒸気の柱
低いうなり声が大気を揺らす
銀色の雨がアスファルトを融かす
ひとの群は南へと移動してゆく
昔の恋人も同級生も
もう見分けがつかなくて
ただ誰もが笑っていて
裸で
幸福で
部屋を片づけてなかったなあと思いながら
私も嬉しくてたまらない
熱くないあかい炎が
私のすべての指先に灯る
なんてきれいなのだろう
これまで私は
こんなにきれいだったことがない
南へ南へと叫ぶのは誰だろう
そうじゃないとそうじゃないと呟くのは何だろう
腐ってゆく海馬に電気を走らせても
私の足はとまろうとしない
南へ!
南へ!
南へ!
ああああああああああ!
心をひとつに
足並みそろえて走ってゆく
暗い太平洋には
歓喜が待っている
そういや私は三流怪奇詩人でしたので、
ちょっと初心にかえって昔の詩を投稿
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