灰色のクレヨン/Giton
 
灰色のクレヨンひとつをにぎりしめ
まっしろな画用紙をくまなく灰に
塗りつぶしていたチビなぼくを
えんちょう先生は庭に呼んで
「ほらよくごらん 地面はね
灰色じゃないだろう? ちゃいろかな?
こげちゃいろかな?くろかな?
ほかにもいろんな色があるだろう?
黄もみどりもあかも ちょっとずつ
まじっているだろう?」 それはぼくの
世界をかえてしまう だいはっけんだった。

それからぼくはいつも黒と茶色と
焦げ茶のクレヨンをにぎりしめて
道も家も犬も ひとの顔も
みんなみんな茶色と黒の世界を
ぎっしりと塗りつづけ 花は根もとだけを
夕日は落ちてから 描いていたが;
毎日歩く道も工場も空も
学校も先生も みな灰色で
ぼくの町にほかの色はなく
ぼくはぼくの世界に会えなかった。

そしてそのまま大人になっていたが
青年期もすぎようというころになって
茶ときんとあらゆる色に光る
なつかしいにおいの髪のなかで
ぼくはやっとぼくの世界に会うことができた。

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