猫の町/石瀬琳々
御機嫌いかが、と
埃っぽい風が吹く
どの窓にも猫が一匹いて
ぐりぐりした目玉でこちらを見ている
しっぽをくゆらすもの
ひげをぴんと張ったもの
前足を行儀よく並べて
あるいはつま先立ちになったまま
*
通りを曲がると細い路地があって
その先に金物屋がある
なべとやかんに囲まれて猫が一匹
うたた寝している (そんな夢を見る)
ストーヴのやかんはシュウシュウいって
なのに 店には誰もいない
その大きなぶち猫だけが主人であるように
片目をあけて こっちを見た昼時
*
足もとをかすめて逃げていった影
路地を消える黒猫
あれは壁に塗り
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