今ここにある危機/殿岡秀秋
 
かれて
胸にひび割れができて
やがて空洞になった
自分と同じ苦しみを
人に与えてみよう
と洞穴の底からささやく声に
悩まされてきた

叱る娘の心にも
空洞があるとしたら
人生でもっとも大切な
生まれてからの一年間に
親の愛を口唇で確認できなかったからではないか

なぜあのとき
充分におっぱいを与えてくれなかったのか
とぼくら両親を恨んでいい
その権利が娘にはある

取り返しはつかないけれど
その怒りをできるかぎり受けとめよう
空洞の亀裂を言葉のコテで
修復を重ねてきた
ぼくの胸で














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