蛇/壮佑
 

 遠目には黒い紐に見えた。近寄ってみると蛇の子供
だった。体長は二十センチくらい。JR新幹線駅の東
口を出てすぐの、駅前広場のフロアタイルの上に横た
わっている。尻尾の後ろの、コンクリートの柱と床と
の接合部に、蛇が出入りできそうな亀裂が開いている。
その奥に巣があるのだろう。小さな頭を僅かに床から
もたげているが、なにしろ全身が真っ黒なので、どこ
が眼なのか皮膚から判別するのが難しい。その眼には
どんな世界が映っているのか、駅前広場のずっと向こ
うの方を眺めているような姿のまま、ピクリとも動か
ない。親や兄弟はいるのだろうか。皆で暗い巣の中で
身を寄せ合って、地上へ旅立
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