あなたの髪に/前澤 薫
 
濡れた髪ぽたぽたと
雫をつくりて、
あなたの肩に
こぼれる。

雫欲しさに、
短く刈り揃えられた髪に
唇をつける。

チクチクと
針の如く、感触に
神経はいよよ醒めてくる。

唇をかすかに開けば、
スーッと、爽やかなオゾンとともに
水気が入ってくる。

鼻より息を吸いこめば、
洗いたてのシーツの如く
フンフンと、その匂いに没入する。

振り向かないで。

首筋にできた
剃り跡に手をあてれば、
ひりっひりっと
胸のつぼみが開く。

あなたの髪に、
いつまでも飽きもせず
五感を使って
撫でていれば、
終日過ぎゆく時は、
凝り固まった果てない火照りに
染められていく。
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