あなたの髪に/前澤 薫
濡れた髪ぽたぽたと
雫をつくりて、
あなたの肩に
こぼれる。
雫欲しさに、
短く刈り揃えられた髪に
唇をつける。
チクチクと
針の如く、感触に
神経はいよよ醒めてくる。
唇をかすかに開けば、
スーッと、爽やかなオゾンとともに
水気が入ってくる。
鼻より息を吸いこめば、
洗いたてのシーツの如く
フンフンと、その匂いに没入する。
振り向かないで。
首筋にできた
剃り跡に手をあてれば、
ひりっひりっと
胸のつぼみが開く。
あなたの髪に、
いつまでも飽きもせず
五感を使って
撫でていれば、
終日過ぎゆく時は、
凝り固まった果てない火照りに
染められていく。
戻る 編 削 Point(2)