臙脂色のひと/恋月 ぴの
されていて
あのひとは車内に充満した排気ガスで事切れていたとのこと
後日、所轄署の担当刑事から聞かされた話では
あのひとは意識を失った私と熊のぬいぐるみを車外へ引き摺り出し
端からそうすると決めつけていたのか独りで旅立ってしまった
どうして私を道連れにしてくれなかったのだろう
そして毛玉の目立つ臙脂色のストール
こんな色合いのストールを
いつから肩にかけているのだろうか
誰かに良く似た女のひとを通過待ちの車内に認める
最近よく見かけるひと
私と目が合いそうになれば慌てて目を逸らし
携帯電話の小さな画面のなかへ逃げ込もうとする
こちらを窺うかようにして陽のあたる扉の傍らに立ち
やがて昼下がりの空虚さに満ちたシートへ腰掛け脚を組んだ
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