臙脂色のひと/恋月 ぴの
あの上り電車で何本見送ったことになるのだろう
別に数えている訳では無いし
有り余った時間を費やせればとストールの毛玉など毟りながら
外界と隔絶された待合室の硬いベンチに腰掛け
あの夜の顛末でも思い出してみる
枕もとで鳴り続ける着信音に答えれば
遠く果てしない闇から響いてくるような老女の声
誰ひとりとして歯向かえぬ絶対的な口調で
未明のキャンプ場へ出動するよう厳命されたと言っていた
駐在所の警察官が半信半疑のまま現地に到着してみると
うっすらと雪に覆われ仮死状態に陥った私の姿と
傍らにはそんな私を介抱するかのように仰臥した熊のぬいぐるみ
クルマの窓は内側から目張りされ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(26)