鉄条網の向こうを走るあの長い列車が通り過ぎるまで/虹村 凌
 

あの長い貨物列車に飛び乗ったんだ
雨の日のドブを流れる笹舟みたいに真っ直ぐ
真っ直ぐに
この街を出て行く
あの列車は夜でも無ければあの空き缶は俺でもない

あの長い貨物列車が通り過ぎてしまう前に家に帰ろう
あの長い貨物列車に飛び乗った空き缶がこの街を出る前に


コップにジンジャーエールを入れてグラス越しに外を見たら
朝陽に輝く街が見えたんだ
コップにオレンジジュースを入れてグラス越しに外を見たら
夕焼けに染まる街が見えたんだ
コップにコカ・コーラーを入れてグラス越しに外を見たら
夜の闇に沈む街が見えたんだ
全部混ぜたら何も見えなくなる

遠くで長い貨物列車が走り続ける音が聞こえる
あの列車が通り過ぎたら
耳にうるさいくらいの静けさがやってくる

あの長い貨物列車は
夜じゃない
戻る   Point(3)