優しい嘘つき/前澤 薫
 
時がすぎれば
忘れられると
強気でそう
あなたが言うものだから
私はくる日もくる日も
何ごとも起こさず
日めくりカレンダーを
めくるように、
繰り返す朝夕を
過ごしました。

朝起きて
電車に乗って
仕事をして
ごはんを食べて
寝て。

あっという間に
同じ冬がやってきました。

階段をかけ上ると
駅のホーム。
息を吐くと
空気が
白くなりました。

赤い電車はすでに
発車してしまっていました。

となりの男の人も
乗れなくて
同じように
白い息を
吐いていました。

そう、
私たちは運がなくて
電車に乗りそびれることが

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