東京の地平線/草野春心
駅のホームからは街が見えていた。
帰り路を急ぐ人々の顔は互いにひどく似ていた。
廃ビルには、昔の記憶が地層のようにこびりついていた。
一日ぶんの影が、街じゅうの屋根という屋根に覆いかぶさり、
そして染み込んでいく。
目を閉じると君が見えた。
それはどちらかといえば、
いくつも混ざり合った感情のようなもので、
僕は君の姿も香りも手ざわりも全然思い出せない。
心には、本当のものなど無いのかもしれない。
営みの環にいつか想いは閉じて、
誰にも気づかれないまま死んでしまうとしても。
それでも人と人が出会うことは、
正しいことだと僕は思う。
駅のホームから街が見える。
街の灯が僕たちを暗闇から護っている。
もっと身体の外にあるものを信じてみよう。
僕と君をつないでいるもの……
東京の地平線。
戻る 編 削 Point(3)