糸が切れる夜/りゑ
 
人の腕の中で
一本目の
糸が切れた

切れた糸に見向きもしないで
彼女は無心に
渇きを癒そうとした
どこが渇いていたかも
忘れてしまって
空虚さとねっとりとした唾液だけが
後に残った

二本目の糸は
ひとりの夜に切れた
堪え難くなって
切れた糸を結ぼうと
しようとすると
指の震えが止まらず
我に返る
床に転がった
無色透明な
アルコールの空き瓶が
からからと 笑った

錠剤のゴミくらいは捨てられるよね 
と 立ち上がって、気を失った
ブラックホールが広がる寸前に
目の端で、クモが走った
夜のクモは縁起悪いから見たくなかったのに

三本目が切れないように
彼女はそろそろと歩くことにした
保険のかかった世界には何の味気も面白味もない
サッカリンの味がかすかに舌をくすぐる


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