らっかするひと/恋月 ぴの
不思議と悲壮感などなかった
明日の訪れを拒絶したはずなのに
交わす言葉の端々に垣間見える未来への道程
ドラマでも演じているつもりなのか
それとも二度と再び戻り得ぬ事実への慄きがそうさせるのか
今日までありがとう
あのひとはキーを捻りエンジンをかけた
一瞬躊躇するかのような仕草の後
生暖かい排気ガスが二人を永久の眠りへと導きはじめ
あれれ ゆき……かな?
小刻みに震えるクルマの周りを
発光しながらゆっくりと上下する儚い綿のようなかたまり
亡くなった母の作ってくれたお手玉にも似て
こっちへおいでよと手招きしてくれているみたいで
わたし
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