らっかするひと/恋月 ぴの
あのひとから乞われた訳じゃない
成り行きでと言えばそんな感じだった
奥さんよりも私を選んでくれた
そんな幼い優越感が無かったといえば嘘になる
幸せだった頃に家族で訪れた事があると話していた
今の季節は無人となったキャンプ場は凍える夜闇に沈んで
雲の切れ間から薄く差し込む月明かりを頼りに
あのひとは睡眠誘引剤を掌に乗せてくれた
風邪引かれても困るからさ
後部座席から毛布を取ってくれた拍子に
大きな熊のぬいぐるみが「ごきげんよう」とお辞儀した
あのひとが一度だけならと引き合わせてくれた
くりっとした瞳が印象的なお嬢さん
いまもお父さんの帰りを待っているのでは
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