私と彼/前澤 薫
いるのが分かる。
私は彼の体を飛び越え、彼の正面に向き直す。睨み付ける瞳の奥に、彼の真意があるように思われる。唇に唇を重ねる。強く圧し上げるように。目をつむる。顎髭に触れ、チクチクする刺激に神経はいよいよ研ぎ澄まされる。舌を入れ、彼の舌のザラザラした感触と彼の口腔内の宇宙を感じ、自分の中の芯が固くなっていく。目を見開く。彼は目を閉じたまま。固くなった小さな乳首はコリコリしていて、そこを一舐めすると、少し溶けたような甘みと潤みが出てくる。深い窪地に入り込んだように、周りの世界は見えなくなり、彼の皮膚と感情に忠実になっていく。首を傾げ、彼の顔を見つめる。瞼と睫が震えている。乳首を前歯で軽く噛み、
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)