雁/杉菜 晃
「巡り会えなくて、ごめんなさーい!」
雁はそう啼いていくようだった。
しかしこれは、運命という〈彼女〉に向って、私の叫ぶ叫びではなかったのか。
年月は感情の幼さや、汚濁をきれいに洗い去って、雁の渡った空は透明な青一色に澄んでいった。
風は爽やかに巡り、彼女を呼ぶ代りに、遍く行き亙る空気のようなもの、聖なる別の対象を呼吸したがっている自分に気づいた。
何がして、彼女にそういう行為を促したかに気づき始めていた。
一点の曇りもない、無垢なる〈愛〉! 私はそのようなものを、彼女を通して教えられたようだった。
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