氷の川/千波 一也
 


氷の川を
停められるのは
時の流れにせせらぐ命


 つめたさを
 うたう刹那が底にあり、

 静けさを
 砕く車輪が
 渡りゆくから、

 氷の川は
 停まらない



だれかの水が濁るとき
あるいはだれかが
濁すとき

時々まがいの
氷が寄せる


 それでも心は
 まわり、まわって
 だれもがそっと
 川になる

 だれの水にも
 どんな水にも
 契りの川が
 きっと
 ある



氷の川の
岸辺に立つとき
おのれの脚は踏みとどまる

姿をもたない言葉の流れを
知らず知らずに
聞き分けて


けれど時々
まがいの氷に寄せられて
停まらずにある
はじまりと
なる




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