螺旋のひと/恋月 ぴの
何故かあのひともそうだった
年上の素敵な奥様がいて
それなりに幸せな家庭を築いていた
そしてそんな男の軽い浮気心に惚れてしまう女がひとり
初めて出逢ったのは真冬に逆戻りしたような夜だった
綻びはじめた桜の蕾みは霙交じりの冷たい雨に凍えていた
探し求めていたひとにやっと出逢えたと思った
しがみついた胸板から懐かしい匂いがして
風邪でも引いてはと気遣う仕草に女の喜びを見出す私がいた
また来るからと額に優しく口付けて
商売女が堅気のひとに惚れる
そんなこと等ある筈は無いと思っていたのに
小さな約束でも守ってくれる笑顔は
男には心なんて許さぬと頑なな想いを
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