浴室/ことこ
湯船のふちまでお湯を張る
そっと揺らさぬように
しずかに身を沈めると
溢れ出たお湯が
洗面器をさらった
体の芯がやわらかくなるまで
ゆっくりと数をかぞえる
幼い頃
半熟卵の黄身のような
浴室のまるい照明が
お月さまみたいだと
おもっていた
ひとすじ ひとすじ
もつれていた感情が
ときほぐれて
天じょうへ
のぼってゆく
やさしい言葉など
なにもいらない
どうせ、ふやけてしまうから
ここでなら
あのころのように
人目もはばからず
泣くことが
できるのだ
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