再びうたう!/生田 稔
上がる丹後の宿の如月の夜に
背もたれて考えだせどこの吾のつとめは歌を詠むことにあり
近頃は雪は少なく降るゆえにまばらに溜る丹後の山野
竹林のライトアップは青すぎて目になじまずに階上へゆく
左には霧にまかるる野がありて妻妹はしきりに話す
地ビールを注文すれば空腹の胃にはいりゆく出石蕎麦なり
如月に歌を詠めばふとふとふととふとふととなり
丹後の畑しっとりとして青に濡れ陽はおぼろなる真昼如月
蕎麦処湖月楼の真昼時そば待つ間には明治を語る
黒髪の妻と真向い食事なす幸せの日々七十路ゆきつ
びょうびょうと野は広がりて春を待つ霞みかかれる遠き山々
明るき陽サンサンとさす丹後道小川流れて山かすむなり
畠中の宿に泊まりてあくる朝老女見送る車に出でゆく
(歌わはずなって幾日か、再び歌います)
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