いつかどこにも行けなかった旅人のはなし/ホロウ・シカエルボク
 









古く哀しい裏通りを急ぎ足で歩き過ぎたら
今にもお前の呼ぶ声が聞こえてくるような気がして
すり切れた俺は気が気ではなかった、あの、あの曲がり角から
軸をなくした幽霊のような昔が
俺のくるぶしに喰いつこうと
躍り出てくるみたいな気がして

冷たい板を敷き詰めた
夜行列車乗り継いで乗り継いでも
降り立った街に見慣れた景色がある、いつか振り切った
幾人もの瞳がずっと俺を待ちかねている

発車のベルを鳴らすのを少し待ってくれないか、これ以上
どこに向かっていけばいいのか考えられないんだ
発車のベルを鳴らすのを少し待ってくれ
俺の脳髄が麻痺して
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