春一番と彼岸花/小池房枝
ヒガンバナが咲いていたのを覚えていますか
赤い花
夏の終わりを縁取り
秋には倒れ
文字通り倒れ
それから細い葉をあおあおと
そこに広げていたのもご存知でしょうか
やがて季節は冬を迎えて
冬の最中に早春を迎えて
今
早咲きの水仙たちはもうつんつんしている
遅咲きの水仙たちももうつんつんしている
おんなじつんつんだけど草臥れて
文字通り草臥れて
萎れ始めているのがヒガンバナです
薄緑と濃い緑のストライプからも
ヒガンバナの葉っぱであることがわかります
競争相手の少ない
光り豊かな秋と冬を震えながらも気ままに過ごして
オータムエフェメラル
というには長い半年
次に咲くだけの貯えはもう出来ました
さぁ
春です
啓蟄を過ぎれば
ヒトたちも動き出す
あなたたちが桜を見ることがあるのかどうか
それは私が見ていてあげる
見ていてあげるから安心して
好きなとき
根の国へお帰り
そうして秋にまた
鮮やかに立ち昇っておいで
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