覚えていない記憶のことを/因子
 
う記憶のひとつひとつを、沼に手を突っ込んで掬い出すようにして手の中へおさめるけれど、私はほんとうはなにもないところへ両手を差し入れて、あたらしく記憶を創造しているのだと思う。
ほんとうは何一つ覚えていない。うまれたことも生きてきたことも。
ただここに私がいるということは、いつかどこかで生まれて、生きてきたってことなんだろうと思うだけだ。





「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」
(森博嗣『すべてがFになる』より)





この手には、詩を書くということは
記憶にないことを思い出すことと
同じ感触がする。
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