爪の気配/A道化
書物の陳列の疲労の飽和した本棚は
朝方には回復を諦め軋みもしなかった
テーブルクロスのうつ伏せた脱力の背にある
アルコールの抜け殻の横倒しの唇は投げ遣りに香った
そっと、突き倒した扇風機の骨格は酷い音がした
報われなかった
執着心持たぬ寝具の不定形のシーツの一時的な肌の襞は
一通り冷め私の背後で逆剥けていた
朝景色の無気力な明るみの色彩は案の定磨り硝子で崩れ果て
薄白いカーテンはそれを隠さず義務的に波打っていた
ぎゅっと握ったらば自らの爪の気配がした
報われなかった
嗚呼、そっと、の抜け殻を掬い上げこの手は空中で泣いていた
ぎゅっと、の抜け殻を握り潰し拠り所失くしたこの手は一層爪を欲していた
回復を諦め軋みもしなかった、投げ遣りに香った、酷い音がした、此処は
此処は逆剥け無気力に明るみ崩れ果て義務的に波打ち、嗚呼、嗚呼、此処には
爪の気配しか無かった、爪の気配しか、無かった
報われなかった
2004.8.17.
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