嘘を愛する/智鶴
正しいのかも分からない
僕の耳を千切って行ってくれたのは
それはせめてもの救いだけれど
世界はやっぱり残酷だった
困ったことに世界の声が
皆君の声に聞こえる
僕の聞こえない耳にも
感じることのない街で
動かない腕を枕にしている
道行く人々の眼窩は暗く
奥の方でたまにちらりと光る
君が世界からいなくなってから
誰が愛しいのかも分からない
僕の腕を折って行ってくれたのは
それはせめてもの救いだけれど
世界はまたしても残酷だった
困ったことに世界の人が
皆君のように柔らかだった
僕の動かない腕の中でも
君が世界からいなくなってから
誰を愛したらいいのか分からなくて
取り敢えず今は
嘘ではないと嘘をついている
僕の感情を持って行ってくれなかったのは
僕にはあまりにも残酷だった
困ったことに
隣で眠る君じゃない人が
とても愛しくて
酷く苦しい
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