嘘を愛する/智鶴
言葉の要らない街で
見えない目を凝らしている
行き交う人はぶつかり合っては
次々に言葉を捨てていった
目の前に置いた空き缶に
君に似た誰かが言葉を入れた
手にしてみたそれは
まるで石のように固く冷たい
君が世界からいなくなってから
誰が美しいかも分からない
僕の目を持って行ってくれたのは
それはせめてもの救いだけれど
世界はもっと残酷だった
困ったことに世界の人が
皆君に見えてきている
僕の見えない目にも
光の要らない街で
聞こえない耳を澄ましている
信号も光らないその街は
事故が多くて危ない
君が世界からいなくなってから
誰が正し
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