新地のひと/恋月 ぴの
 
死ぬ気になれば何でもできる…

それは瀬戸際に立たされたことの無い人間の言葉



新地に棲んでいた頃の母を良く知っているといって
狐目の男が自宅を訪れることがあった

その度に母はとってつけたような用事を私に言いつけると
狐目とふたり家の奥へと消えた

暫くして家から出てきた狐目は決まって機嫌よくて
鼻歌交じりに私の頭を撫でては肩車しようとした

おまえのかあちゃん昼間からおめこしてるんか

ガキ大将格の男の子が囃しながら私のパンツを脱がそうとした

蝉時雨鳴り止まぬ昼下がりにおめこ
それは母娘ふたりの命を繋ぐ生業のようであり
独り遊びに興じる私に
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