亡霊と空蝉/百瀬朝子
煙と汗まみれ
熱気が生んだ水蒸気で曇る
リズムに狂ったあの日の夜が
恋しくて恋しくて、愛しくなる
空蝉(うつせみ)にとり憑いた亡霊のパフォーマンス
怪しげな手の動き
不吉なダンスに目が離せない私たち
心まで釘付けにされた私たち
人間の波に呑まれたのは魂
解放するのは終焉の時 のみ
空蝉にとりついたのは私たちの魂 か?
悲しみで擦り切れた心
ボロボロになるまで駆け抜けた過去
忘却した傷口を生温かい唾液で濡らしてよ
乾いて剥がれてしまわぬように
ねっとりとしたその分泌液で溶かしてよ
こみ上げて溢れる涙が語るのは癒される喜び
草臥れたあたしを許すようないたわり
憑依は解けて 夢から覚めた ここは空蝉 亡霊はいない
そう、許された
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