鹿/
音阿弥花三郎
邪悪な眼で見られてしまった。
避けようもなくあまりに無力だった。
もう遅いのだ。
一匹の鹿がこちらに近付いて来る。
あの角は獰猛(どうもう)だ。
なぜ人はそれに気付かない。
あの足取りは暗殺者だ。
悪意を感じさせない優雅さだ。
鹿は恐ろしい動物なのだ。
鹿と共に眠る事は。
最も恐しい行為だ。
あの体毛の匂い。
あの体毛の中のダニ。
夜の体に幾筋もの汗と血。
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