夜応録/木立 悟
 






右から左へ弧を描き
水は何も言わずに消える
虹が残る間だけ
沈みかけた道が見える


炎の点が音に揺らぐ
仰ぎ見るたび止まる雪
歩く影にしがみつく雪
土の上の曇を隠す


浅い底の尽きぬ面
光が光を抄う無限に
最も近い有限の手の
水溶質の楽団の帰路


雨が過ぎ
鳥の王が過ぎ
翼だけの生きものが
森をさすり 森をついばむ


声が声に請い
花が花に請う
未だ明かりに至らぬ明かり
ぜんまい花を巻く雄芯


器のものではない蓋が
器の熱に乗せられている
隙間でもなく歪みでもなく
音にも意味にもなれずにはばたく


とどろきは澄む
遠い入口に光は降る
ついばむものの足跡は無く
かけらが道のようにつもる


蒼は昇る
鱗を過ぎる
世界の逆へ
地平は地平を巻き上げる



















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