人魚・2 〜蝋燭〜 【小説】/北村 守通
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自分自身の考えられる物理現象の、何れをも否定する物体と現象とが私の足元にて展開していた。
水深五十cm程度であろう、その世界に赤い、血の様に真っ赤な蝋燭が煌々と海中を照らし出していたのである。
当然のこととして、私はまず自分の目を疑った。しかし、何匹かの小魚が、光に集まっては私の存在に気づき、砂煙をまいて再び漆黒の彼方に消え去るのを見て、それが決して錯覚などではなく、実在するものを映像として認知しているのであろうという結論に達した。そして、自然と次にとるべき行動を考え、それを実行に移そうとした。波が私の頬をかすめた様に思えた。一瞬、不測の事態にたじろいだが、体勢を整えなおし、もう一度手を差し伸ばした。火は、やはりそこで変わらず揺らめいていた。
「見えるの?!」
はじめ、それは私のすぐ後ろで発せられた様に聞こえたが、実際にはもっと遠くからだった。先ほど、私が潮の洗礼を受けたであろう場所に声の主は、私が一方的に再会を望み、幻想を抱きながら待っていた待ち人は立っていた。
やはり月も星も、そして雲さえなかった空の下で、私は彼女と対峙した。
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