彼/アングラ少女
 
彼の円錐の
漆黒の並木には
ただならぬ放蕩者の書物が
いっぱい成っている
純粋な今
の主題を的確にもぎとるべき
細密な枝の先にどれも
破壊や破滅の真の送り仮名が
世界の焼かれた鉄板ではない
彼の物質的欲望の全体をふるっている
宙高く回転する円盤の模倣
のように揮発する
彼の生命
ある頁では単調な
木魚の音が遠ざかってしまう
溶けかけた容器のような
小さな半島の岬で
僕は
世界の焼かれた鉄板ではなく
白い灯台のみつめる海洋が
まぎれもない彼のことばだと知っている
沖の情念や泛う生態や魚雷
漂泊するものの母胎
あるいはすさまじい風景の血
かりそめの粟のはじけるにおい
は保障されている
感覚の配色を暴くために
型破りな作法で彼の詩はあるから
僕にはまったく感動が起らない
ことばはなにも暴かず
思案する水域に還ってゆく
砂丘に拾われた貝のように
拓いたまま彼の歴史を黙しながら
潮の底で大地を夢みる
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