透明宣言/木屋 亞万
悪い目つきの背高がマウンドに駆け寄り何やら話していた
チビは相当悔しそうにしていた、
いつもはおたまじゃくしのような目が、針金のように細く釣りあがっていた
背高はいつもの厳しい目つきとは対照的に眉間を緩めていた
自分の守備位置まで小走りで帰ってくると
両手を大きく広げ「とーめー」と叫んだ、透明宣言だった
二塁手と遊撃手が思わず顔を見合わせた、観客席がどよめいた
でも結局それが何なのか、解説者にはわからなかった
背高はいつものように周りの反応は意に介さない風で
キャッチャーマスクをかぶりしゃがみ込んだ
チビはいつもより多めに手の中で球を回し、背高は右手でミットをバシバシ叩いた
三球目が投げられた、地球を背負い投げするような投球だった
パシンという乾いた捕球音とともに、二人の魔術師は消えた
審判の前に白球が転がって、打者はその場に立ち尽くした
それ以降、二人の魔術師は二度と帰ってこなかった
その外国人選手はその後すぐに引退を表明し
自分も透明宣言をしなかったことを最期まで後悔したとされている
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