空、ひと/山中 烏流
にして
幾つもの夕暮れが去っていった
鳥も花も、私以外の何もかもは
一緒になって
何処かへ行ってしまう
だから、
街灯が明滅して
木漏れ日に風が吹いた
いつの間にか、また通り過ぎたらしい
方々から
食器の音と、笑い声が響く
深く化粧をした空が
私の手を取る
なんてことは、起こる訳もなく
肩に下げた鞄へ
本を滑らせる
登場人物の名前を思い出すけれど
それは、別に
どうでもいいことなんだろう
そろそろ帰ろうかと思う
シャボン玉の空きケースが
ことり、と
倒れてしまったから
空を見上げている、そのすぐ横を
近所の子供が走り去って行く
「まるで、空のようなひと」
声にならないくらいの大きさで
私は、そう呟いた
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