オセロ/音阿弥花三郎
喉を締める その女の喉を
こうしなければ という切羽詰った感情が俺の手にこもり
喉を視ているが 女の顔は分からない。
胴から下はさらに心許ない。
ちゅうちょは出来ない 始めてしまったものは
そう考えて あらためて力を込めると
瞬間に全身から冷汗が噴き出した。
手の中に喉がない。
足許を見る。
誰も倒れてはいない。
辺りを見回す。
松明の照らす所に石壁があるだけだ。
ハンカチは?
あの女の持っていたハンカチは?
あれが俺の行動の一切のわけを知っているのだ。
すべてが俺の周囲から消えたらしい。
幾分の安堵と背後から突き刺さる後悔。
喉元へせり上がる感覚に
ベッドの下に向かって思い切り吐こうとした時
ムーア人の従者の声がした。
俺は姿勢を正した。
歩み寄り いま俺の背後に立っているのは
間違いなく妻だ。
首に巻きつく手が殺意か愛情か
今の俺には判断が付かない。
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