臆する/殿岡秀秋
オフィスで
若い娘に話しかけられ
とくに意識しないで冗談を言ったら
彼女が笑う
オフィスの高い空にそよ風が吹く
彼女との間に会話が流れだす
途端に意識すると
ぼくの胸に雲が発生する
横隔膜のあたりから全身に雲が広がり
ぼくの顔の筋肉に電気が走る
消える微笑
眼の周りに力がはいって
彼女をにらみつけてしまう
ぼくは話しをやめたくなる
あるいは彼女の方から
話しを切り上げてほしい
オフィスの草原に
雨が降りだす前に
ぼくを見て彼女の表情も曇る
冷えた風が吹いてきて
ぼくの胸の黒雲に雨を呼ぶ
娘の馬の尻が左右に
揺れるのを見送る
そうではない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)