幸せクジラの旅/かのこ
た
僕はずっとずっと
一人ぼっちだったのだろ
どこにも行けるからだで
どこにも行くあてがなく
広すぎる海をさまよっていたのだろ
クジラはまるで丘のようなからだで
悠然と旋回して、世界を廻す
揺さぶる水の動きが、海を作っていく
僕はあの淋しそうな瞳が忘れられないんだ
もっと、深いところまで連れ去っていって
過去の記憶を叩き割り
すべて粉々にしてかき集めた欠片を
何とか組み合わせ、未来を紡ごうとしても
うまくはいかないよ
あの小鳥は君が手放したから
ゆるゆると、呼吸をやめて、ね
誰も何も望まないままに死んでしまったんだ
今もさまよう海の中で
流す涙もつぎつぎと溶けてしまうんだ
幸せを
ただ幸せを願って
大きなからだで生まれた君の
どうしようもないやさしさが
分かった気がしていたんだ
嘘だったんだ
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