幸せクジラの旅/かのこ
あたたくて大きな腕、海みたいにたゆたう夜
肋骨ごと壊されそうなくらいにきつく抱きしめられて
まるで小鳥みたいに震えていた、僕の
この赤い心臓を、たとえば掌でぎゅと掴んでみて
潮騒のように押し寄せる波が、ね、ほら、聞こえる
耳元の熱い高鳴りばかり響いて
暗くて広い海の中は、ね
冷たい孤独とやさしい永遠
僕はひどく泳ぎ疲れていたものだから
君の温度を知ったその瞬間、力尽きて
眠りに落ちていったんだ
あの言葉がすべて嘘だったらどうしよう
あの言葉がすべて真実だったらどうしよう
悪い夢から覚めることができなくて、もがきながら
信じられる言葉だけを聞いて、聞いて、泣いた
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