冷たい磔刑/岡部淳太郎
とても
とても高い所から
落とされて ばらまかれたみたいに
路上には大勢の人々が
ざわめいていて
それぞれがひとつずつ
何かしらの凶器を隠し持っている
とても
とてもありふれた所から
吊るし上げられて
まっとうな淋しさを持った
ひとりの男が 人々の眼の前で
磔にされている
人々の持つ凶器に
脅えたのだろう
その眼は
神のいない真昼を
映していた
男はひとり街の中で
掌に釘をうたれ
磔にされているのだが
何という冷たさだろう
人々はただばらまかれて
それぞれの行先へと急ぐだけで
誰ひとりとして
その男に注意をはらわない
男に向けられた
魚のよ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)