雨音/暗闇れもん
 
黒くかび臭い彼の上着。
馬車部屋いっぱいに雨音が響く。

「絶望を知っている?」

「はい」

彼は残酷な笑顔を見せた。

雨音が聞こえる。

こんな時でさえ、私をこの場所に残したまま、彼は遠い昔に戻っていく。

今日はいつもより罪深い。
深い痛みが繰り返し、繰り返し。
爪は肩をえぐり、眼球をえぐり、肉片になり夜空に舞う。
いっそのことそうしてくれたなら、私は彼を残して飛びたてるのに。

雨音にも負けないくらいの悲鳴に似た泣き声が
馬車部屋に吸い込まれていく。

厚い扉の向こうはきっと今日も静かだろう。


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