虹/カワグチタケシ
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その声はとても高いところから来た
雲より発し、雨滴とともに地上へ降りてくる
その声にすこし遅れて雲が降りてくる
山肌を滑り降り、谷間を霧で充たす
立ちならぶ鉄塔が山肌を刺繍する
鉄塔と鉄塔のあいだにたわんだ電流が走り
渓谷のはるか頭上で生活をつなぐ
鐘の音が夕刻を告げ、人々は灯りを点す
天気雨、西の空をななめに横切る陽光に
照らされて雨滴は七色に光る
常に高いところから低いところへと落ち流れる
その一瞬を、われわれは虹と呼ぶ
真夏の正午、真上から陽に照らされて
足を浸す冷たい流れが爪先を無感覚にしていく
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ニューヨークを出たのは夜明けまえ
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