君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
言葉を私は吐いた。罵倒されて当たり前、たとえ鼓膜が破裂するまで殴られても当たり前だと思った。
 それなのに。悠人はそのまましばらく黙り込んだ後、はにかんだような笑顔を浮かべて、
「そっか。わかった」
 穏やかにそう言って、テーブルの上に広げようとしていた折り紙を片付け、最後に私の方をじっと見つめてたっぷり数秒後、それでもあっさりと私に背を向けた。
『待って』
『行かないで』
『今のは全部嘘だから』
 そんな言葉が喉元までせりあがって、言えなくて。悠人を後ろから抱きしめたくて、ベッドから降りそうになる自分を必死に抑えて。ようやく戸がパタンと閉まる音を聞き届けるや否や、私の涙腺は一気に緩
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