君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 

 私は男の子が黙った隙に、自分の病室に帰ることにした。良い具合に自責の念や絶望感が薄らいでいる。病院という限定された生活の領域の中で、こうして両親や自分以外に対して腹を立てたことなど、本当に、本当に久しぶりだったのだ。
 しかし私が今、男の子に対して抱いているのは、禍々しい怒りや憎しみなどでは決してない。こうして、私もまだ何かに腹を立てられるのだと気付けた。それに対する、感謝のようでさえあったのだ。

 寝てばかりで体力の落ちた私の体には、この程度の短い散歩ですら少し堪える。わずかな力で開くはずの病室への引き戸でさえもが重い。両手で持ち手を掴み、それにもたれるようにして開けると、そこに
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