チェーン/オイタル
 
方、誰かが頭部を失う。(もしくは、首から下の忘れ物)
 誰かが、嫌いだった左腕を失う(指が不恰好に長くて、もはやそれは仲のよくなかった懐かしい兄弟のようだ)。
 次に誰かが左腕を失う。
 次に「ようこ」と言って額のあたりで笑った瞬間、お前の知らないところでお前の知らない黒人の少女が目を開けたまま抱いていた機関銃ごと蜂の巣になる。
 赤と白の花籠を飾る明け方。
 〇九年一月十三日、二十時二十七分。もはや時を綴ることのない少年はそのときの形で昨日を繰り返す。何度も何度も何度も。
 昨日の感情を繰り返す。何度も何度も何度も。
 昨日の手触りを繰り返す。何度も何度も何度も。
 妻のつまみあげるチーズケーキの割れ目の奥で破裂する少年のやせた右足。それから小さなチェーン。耳飾りの。
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