暗号/土田
の家庭料理をこさえていた
そこにはおれに伝えたいものなど何ひとつ見つけられなかった
久しぶりに実家の自分の部屋に掃除機を掛けた
おれの邪魔ばかりする彼女の掃除機の掛け方を思い出して
口を大きくあけた三十五度の夏空に
ふたりのやり取りの最後の塵が吸い込まれていった
昨日中学校の陸上部の後輩の女の子から電話番号を聞かれて
おれはこの子とはもう寝れるんだと思った
それはまるでニュース番組で飛び交う標準語のような過ちだった
式の後銀行で奨学金を下ろして
半年ぶりの友達と一緒に息子たちを慰めにいった
指名した女と一緒に浴びたシャワーがひどく熱かった
その日おれは人に成った
その日まで覚えていたら
必ず死ぬという言葉を思い出したのは
人と成ってから数日後の
浜松町行きの夜行バスのなかでひとり
おれと同じく人と成っていたかもしれない女の子が
携帯の液晶画面をちらつかせる淡いひかりで起きた
その五分前に眠った夢のなかでだった
2007/9/28
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