クロスレット・シルバー /いすず
だれかを自分が必要なときは、自分も必要とされていると思いなさい。それは父の口癖であり、教えでもあった。必要とされない思いなどないものだ。祈りなさい。そして、すべてのものごとは、運命だよ。千尋は消えていた、ろうそくのかけらに火を灯し、おじいの傍に立て掛けた。ろうそくはゆれながら勢いのある焔で因業のように燃えつづけていた。
ふたりは祈った。羽鳥はないていた。いつしか外は吹雪になりかけていた。
テントを出た羽鳥は、心なしか侘しげな眼をクルスに当てていた。カフェ・オルフェまで羽鳥を送ることにしながら、千尋はしきりにクルスをぬぐう羽鳥を見つめていた。
だいじそうにクルスを見つめながら、ここに紋章がある
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